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    du abortigajxoj (どぅ あぼるてぃがーじょい)

 

          ながの・ぷち仙人・としお

 

 

 

   門口に居て、去ろうとせず

   祈ることもできぬ子どもらのために

   ヴェールの女は祈るだろうか?

 

   彼女を害し、恐怖におびえ

   身を投げだすこともできぬ者たちのために

   細い いちいの樹のあいだに立つ

   ヴェールの女は果たして祈るだろうか?

     

        T・S・エリオット「聖灰水曜日」

 

        (コリン・ウィルソン

         「アウトサイダー」よりまごびき)

 

 

 こないだ れっしゃに のりながらね、あたまにわいてくるものを メモに とってたんだ。 これが それなんだけどね。はじめに いきなり「かんがえること」って かいてある。いまのぼくはさ、かんがえるなんてダメだっておもってるんだ。まあ、ダメとまではいわないにしても、たいしたことないってね。あっ、このきょく、ペンギンカフェ・オーケストラってバンドのねえ、"the sound of someone you love who's going away and it doesn't matter" っていう ながったらしい なまえのきょくなんだけど、いちじきのぼくにとっては さいこうのきょくだったなあ。ペンギンカフェは げんのかなしいおとづかいが すきなんだけど、このきょくは ギターのアルペジオふうの おとや ピアノとてっきんの あいだてきな でんしっぽい おとも やさしくてねえ。いま きづいたけど、"i love you, but i don't need you" っていう ぼくの じゅもんは このだいめいが ひとつの たねに なってるんだな……。

 えーと、で、メモの はなしだ。うん、ぼくはさあ、かんがえるなんて つまんないって おもってるのに、さいしょに「かんがえること」なんて かいちゃってるんだよね。かんがえるなんて よしたいのに かんがえるに こだわっちゃって、かんがえるについて かんがえちゃってるんだ。こんなこと ぐだぐだ いってるのが まったく かんがえるに とらわれてる しょうこだよね。なんだか いやんなっちゃうな……。

 そういえば むかしは こんなふうに ふたりで はなすなんてのは にがてでね。いまみたいに ふたりとも だまっちゃうと なんとなく きまずかったりってあるじゃない。だから おんなのこを デートに さそうなんてのも かなり ゆうきが いったな。いくまえから なんの はなししようか なんて かんがえてたりしたもんだよ。まあ、いまだって にたようなことしてるときも あるけど、むかしに くらべたら ぜんぜん ちがうもんなあ。いまはもう、はじめて あった おんなのこでも どんどん しゃべっちゃうし、デートにも さそうし、ごぞんじのとおり ぼくは きのおおい にんげんだから すぐ すきになっちゃうでしょ。おまけに ここんとこの ぼくは すきだってのを すぐ あいてに つたえちゃったりも するからな。えっ、あぶないって? うーん、そうね、まあ、せけんてきにいえば あぶないだろうし、こっちの だしかたによっても あぶないときは あるよね。でも こっちの きもちを おしつけさえしなけりゃ、たいてい よろこんでもらえるよ。すくなくても ひょうめんてきにはね。だって ひとから すかれるのって きほんてきに きもちいいじゃん。んっ、ああ、おしつけないってのはねえ、ぼくは きみのこと すきですよ、でも こっちをむいてくれなくてもいいですよ、あんまり きにしないでくださいねって、そういうかんじで にげみちを つくっておくのね。つまりさ、おんなと おとこが すきあうってのは、たがいに あいてを しばりあうってことだったりするじゃない。そんとき こっちが いっぽうてきに すきだっていって あいてを しばろうとすれば あいては いやがるよね。だから こっちは わっかになった なわでもって あいてを しばりたいとしても、このわっかに はいるも はいらないも あなたの じゆうですよって いうわけ。でさあ、これは こっちにとっても にげみちに なるからね。つまり あいてを むりやり なげなわで つかまえて、もし あいてに そのきが なけりゃ あいては にげようとして じたばた するよね。 そしたら あいても きずつくし、こっちも きずつくしって ことに なりがちじゃない。れんあいもうそう かなり はいってる ぼくとしては いまは こんなやりかたが けっこう あってるかんじでね。……でも いまんとこ こっちをむいてくれる ひとには であえてないからなあ。まあ、タイミングのもんだいも あるとおもうけど。

 うん、それで メモにもどると、にばんめには「ゆめみること」って かいてある。いまの ぼくは かんがえるより ゆめみるのが たいせつだって きが してんのね。もちろん、かんがえることも ばあいによっては たいせつなんだけど、ぼくは ほら、ごらんの とおり あたまでっかちだから、いまは バランスをとるために なるべく あたまは つかわないように したいんだよ。あたまは ほどほどにして きもちに まかせるって いうのかな。あたまは げんじつの ごちゃごちゃしたことに ひきずられて つい うじうじ なやんだりするから、もうすこし きもちや からだに ちかいところで べつの ビジョンが みたいっていうか。そんなのが ぼくの ゆめみること だったりする。

 あっ、いま きゅうに おもいついたんだけど、ことしって 三十五ねんに いちどの たいさいの としなんだよね。そうそう、おおきな まつり。なんの まつりかっていうとね、へへへえー、ぼくに やどってる、この、なんだか わけわからん たましいの まつりなんだけどね。うん、そう、ことし 三十五に なるからなんだけど、三十五は ぼくが こうこう いってたころからの ラッキーナンバーなの。いや、だからね、ここんとこ まいにち のみつづけでさあ、おまけに きょうは どなんの ろくじうどなんていう さいこうのさけを のんじゃってるでしょ。どーして そんな ぜーたくが ゆるされるかってーと、ことしが たいさいの としだからってわけ。あっはっは、もちろん。こんなの こじつけで なんのいみも ないよ。でも、そもそも このせかいじたいに なんのいみも ないんだから。むかしのひとが まつりの ときだけ、おおばんぶるまいしたのだって、げんみつに かんがえりゃ いみなんて ないでしょ? いみなんてないっていうか、つまり、なっとくしやすい きめごとってだけでさ。だから、この 三十五ねんめの たいさいってのも ぼくがなっとく できれば それでいいの。それが ゆるされる、ときと ところに うまれてきちゃったんだから、それで いんだよ。ふんっ、ずいぶん いぢわるなことゆーぢゃない。そんなこた、ひゃくも しょうちだよ。もちろん、おれは ひとを ふみつけにして いきてるさ。でも、とにかくおれは、そのことから めをそらさないし、そのことに いなおったりも しないからね。それで どうっていわれたってね、そりゃあ、そんなことで、ふみつけに されてるひとの きもちが おさまるとも おもわないさ。でも おれはさ、ふみつけにされてる ひとたちの いかりが ばくはつして おれをころすなら、そんときは よろこんで しぬさ。……いや、じっさい そのときになりゃね、いやいやしんでくかもしれないよ。でもまあ、それはそれで いいじゃない。そういう よわさもふくめて にんげんなんだからさ。

 うん、そうだね。こういうのも けっきょく いなおりかもしんない。でも、いまの ぼくには これしかできないからさ……。もう、しょーがないよ。

 んーーーーん、それでさあ……。もう これだけ よってるから いえるかなあ……。

 あー、やっぱ きんちょうしちゃって だめだなあ。

 うん、だから、そうだ、ごく、ちゅーしょーてきな いいかたを することにしよう。なにいってんだか わかんないかもしんないけど、よかったら きいてよ。うん、そう、わかんなくていいから、なんにも いわなくていいから、とにかく きいてもらえるかなあ……。

 えーと。つまりさ。

 ……。

 つまりね。

 ……。

 つまり、ぼくは にど、ちゅうだんを ひきおこしちゃったんだ。うん、ちゅうだん。いちどじゃ こりずににど、ね。もちろん ぼくは さいてーの にんげんさ。ほかに いくらでも ひどく みえる にんげんが いるにしたって、ぼくが さいてーなことには かわりない。そう、ぼくは ひとを ふみつけにしても あいての いたみが わからない さいてーの にんげんさ。ひとの いたみを かんじる かんかくきかんが こしょうしてるんだな。――いや、こしょうどころじゃなくて、さいしょっから なかったのかもしれない。ぼくはきけいなのかもしれない。それとも……、ひつじの くにに まよいこんだ おおかみの すてごかもしれない……。

 とにかく ぼくは、きゅうけつきみたいなもんさ。からだに つめたいちが ながれてるもんだから、ひとから あたたかい いきちを もらわないことには いきていけないんだ。「はやく にんげんに なりたァい」っていったって、にんげんに なれるか なんの ほしょうも ないしね。いや、にんげんには なれないってあきらめてるわけじゃないよ。いまの ぼくは、かんがえることの ばかばかしさや、ゆめみることの ちからづよさも すこしは しってるからね。

 

 ……ああ、そうだね。ちょっと よいに まかせて おもいはなしを しすぎたかな。うん、ありがとう。もう ねることにするよ。これだけ はなして すこしはらくになったし。うん、それじゃ おやすみ。

      [九九・四〜六、とうきょう・えどがわ]


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